編集後記
サイト制作にあたり執筆と写真の撮影を依頼した建築士の李昀蓁(リー・ユンチェン)さんにインタビュー
今回ヤマト インターナショナル本社ビルのサイトを制作するにあたり執筆と写真の撮影を依頼した、台湾出身の建築士 李昀蓁(リー・ユンチェン)さん。 Instagramアカウント「東京建築女子」(@fuples)で、美しい建築写真をアップし多くの建築ファンを魅了している李さんに、取材を終えてみての感想やご本人の建築に対する思いなどを伺うことで、ヤマト インターナショナル本社ビルの魅力をさらに掘り下げてご紹介します。

(c)Haruna Uchiyama
Q1
ヤマト インターナショナルと李さんのつながりは香港の新聞「開眼」に取り上げていただいたことがきっかけでしたが、それより以前からヤマト インターナショナルについてはご存知でしたか?
A1
学生時代に原広司さんという建築家の名前は学んでいましたが、それ以前はヤマト インターナショナル本社ビルについて知りませんでした。その後、台湾向けのオンライン建築講座の準備の中に、改めて日本の建築家たちについて勉強した際に、原先生の理論に触れ、そこからこの建築を知りました。建築空間に哲学や思想がどのように組み込まれているのかを深く考えさせられるきっかけでした。
Q2
今回の原稿執筆の依頼を受けての感想を教えてください
A2
まず、このような貴重な機会をいただけたことに心から感謝しています。原稿執筆の過程で実際に建築の内外を見学できたことで、より深く建築の空間性やディテールを体感することができました。また、原先生の空間に込められた理論や思想にも、より近づくことができた気がします。私にとっても大きな挑戦であり、学びの多い経験となりました。
Q3
李さんの普段のお仕事について教えてください
A3
普段は東京の建築設計事務所で意匠設計を中心とした仕事をしています。建築設計だけでなく、インテリアやFFE(家具・備品)も含めて、空間づくり全体に関わっています。
「東京建築女子」は、私自身のもう一つのライフワークであり、日常の中で出会った美しい建築や街の風景を、写真や文章で発信している活動です。SNSでは日本を中心に各地の魅力的な建築を紹介しながら、台湾のウェブメディアや香港の新聞「開眼」でも毎月コラムを連載しています。 また、たまに翻訳や書籍関連の仕事、さらにインフルエンサーとしてのお仕事もいただくことがあります。写真を撮る際には、建物が持つ垂直・水平のラインを丁寧に意識して構図を決めています。遠近感を強調したパース的な撮り方よりも、建築をフラットに捉えた正面性のある構図を好みます。できるだけ建築の持つ秩序やリズムが伝わるよう、静かで端正な視点を大切にしています。

Q4
なぜ日本の建築に興味を持ったのですか?
A4
大学で建築を学んでいた頃、世界中の建築事例を研究していました。その中でも、日本の建築は台湾と同じでアジアの都市でスケール感が近く、どこか共感しやすいと感じていました。限られた敷地や厳しい条件の中でも、日本の建築家たちは豊かな空間やユニークな建築を生み出していて、実現力の高さにとても感銘を受けました。
特に好きな建築家SANAAの作品は建築に対する「重さ」のイメージを覆し、光や空気と一体となるような透明感や軽やかさを持っていて、本当に美しいと感じます。
Q5
李さんにとって原広司氏とはどんな存在ですか?
A5
原広司氏は、理論と実践を架け橋でつなぐ建築家であり、優れた教育者でもあると感じています。彼の建築は単なる造形美に留まらず、哲学的な思考が空間に深く根付いています。彼の弟子たちにも受け継がれていて、山本理顕の「住居論」や隈研吾の「負ける建築」、小嶋一浩の「黒」と「白」の空間のように、独自の発展を遂げています。原先生の存在は、建築における思考の深さと自由さを教えてくれる存在です。
Q6
ヤマト インターナショナル東京本社ビルを見学・取材しての率直な感想を教えてください
A6
外観を初めて見たとき、原先生の粟津邸を思い出しました。理論に裏打ちされたデザインが、住宅とは異なるスケールで展開されていて、その大胆さと知的な構成力に感動しました。見た目の印象だけでなく、構造や素材の使い方にも哲学が感じられました。内装はリノベーションされていて、とても明るく若々しい雰囲気でした。快適で働きやすい空間だと感じましたが、私個人としてはもう少し原先生の建築との連続性や対話を感じられるような要素が加わると、より魅力的になるのではと感じました。

Q7
ヤマト インターナショナルに今後期待することを教えてください
A7
今後も「らしさ」のある空間づくりを大切にしながら、企業としての文化や建築的な個性をさらに発信していってほしいと思います。原先生による本社ビルという素晴らしい資産を活かしながら、未来に向けた柔軟な働き方や、空間を通じたブランド価値の伝え方にも挑戦していただけたら嬉しいです。

(c)Haruna Uchiyama
Profile / 李昀蓁(Yun Chen-Lee リー・ユンチェン)
建築家。台湾生まれ。東京都在住。台湾の大学で建築を専攻。在学中から日本の現代建築に魅了される。大学院卒業後、建築事務所で働きながら台湾建築士免許を取得。2015年に来日。日本語学校で学び東京の建築事務所に入社。趣味も兼ね仕事の傍ら日本各地を旅する。 美しい建築を訪れては写真と文章で記録している。2016年から「東京建築女子」というアカウントでFacebookページを開設。記録した日本の建築情報を台湾に発信。同タイトル「東京建築女子」を冠して日本各地の建築旅をまとめた書籍を3冊刊行。今後、日本の建築と生活をテーマに4冊目の出版を予定。Instagramでも「東京建築女子(@fuples)」にて各地の美しい建築写真を投稿。日々活躍の場を広げている。